周りを見ると、
女性のお客さんと話している姿が目に入った。
笑顔は向けるけれど、
必要以上に近づいてはいない。
誰に対しても、同じ距離。
「……あの人さ」
美琴ちゃんが小さく言った。
「誰にも踏み込まないよね」
言われて、妙に納得してしまう。
「うん」
それは、悪いことじゃない。
むしろ、安心できる。
たくさんの人に声をかけられても、
変わらない態度。
私にはよく分からないけれど、
モテるのもきっと大変なんだろうな、と思った。
でも同時に、
簡単には近づけない人なんだ、とも思った。
「いつものケーキとは、違った雰囲気だね」
早く食べたい気持ちを抑えながら、
店員さんが来るのを待つ。
後ろの席から、ひそひそとした声が聞こえた。
「やった、今日も湊くんいる」
「ほんとだ、ラッキー」
名前だけが、ふっと耳に残る。
……湊くん。
それが誰のことなのか考える前に、
マスターの声が店内に響いた。
「湊、こっちお願い」
その瞬間、さっきの名前と
いつもの店員さんの背中が、
きれいにつながった。
(あ……)
