甘さを重ねて、恋になる



ケーキを食べ終わるころ、カウンターの方が少し騒がしくなった。


「……ほら、今日も」


美琴ちゃんが声を落として言う。
視線の先でさっきの店員さんが誰かと話している。


年上っぽい女性が、紙を差し出した。
彼は一瞬だけ困ったように笑って、それから両手で受け取る。


「また渡されてる」

「なにを?」

「連絡先。よく見るんだよね、ああいうの」


へぇ、と思いながらフォークを置く。
正直、あまり実感はなかった。


そのとき、カウンター越しにマスターの声が響く。


「次のオーダーお願い」


彼が顔を上げて、軽く返事をした。
さっきと同じ、柔らかい笑顔だった。


「人気者なんだね」


私がそう言うと、美琴ちゃんが小さく肩をすくめる。


「そうみたいね」


甘いナポレオンの層を、そっと崩す。
パイに包まれるような甘さに、心がふっとほぐれた。