推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 毎度律儀に事務所に確認していたのだろう。あいつは、俺がどれだけ距離を置いても、絶対に離れては行かなかった。
 だけどそんな気遣いが、俺にさらなる劣等感を感じさせた。あいつの器のデカさを見せつけられているような気がして、気が気じゃなかった。あいつと比べてしまう自分が嫌だった。
 チケットが送られてくる度に俺は憂鬱だった。“ごめん。結局行けなかった”といつも蓮に謝りのメールを入れる。
 すると、あいつは決まってこう返してきた。
”そうか……。でも、俺はいつでも待ってるから! また気が向いた時に観に来てくれよ!”
 あいつの言葉には、嘘も偽りも含まれていない。だから余計に苦しかった。悔しさと情けなさがずっと胸の奥にこびりついていて、Scorpio(スコルピオ)の活躍を見ることなんて少しもできなかった。
 そんな劣等感をずっと抱えていたら、いつしか俺の中に黒いモヤがかかり始めた。それは徐々に大きくなっていったけれど、俺はそれを見ないふりをして過ごしていた。
 嫉妬に呑み込まれるなんて、それこそダサすぎる。
 俺は自分の小さなプライドを守ることに必死だった。それなのに、どうしてあの日あの場所へ行ったのか。それは、俺自身にもわからない。だけど、あの時は何故だかScorpioのライブに行ってみる気になったのだ。
 あの頃のScorpioは、世間的にはまだ知名度の低い駆け出しグループだった。もしかしたら俺は、あいつらの至らない点を見つけて、少しでも安心したかったのかもしれない。
 そんな俺の黒い期待は、ものの見事に打ち砕かれた。Scorpioは俺が想像していたよりも遥かに輝いていた。まだまだ小さなハコだったけれど、それでも黄色い歓声とたくさんのペンライトの光に埋め尽くされた光景は、アイドルが見るべきそれだった。ステージ上のあいつらは、その光景を見るに相応しい堂々たるパフォーマンスをしていた。
 樹はあんなにも凛々しかっただろうか。
 蓮はあんなにも眩しかっただろうか。
 ステージで歌い踊るあいつらは、俺の知っているヤツらではなかった。俺が知っていたのは、歌もダンスもまだまだ未熟な男たちだ。
 だけど、ステージの上にいるのは違う人だ。あいつらが歌うたびに会場が一体となって盛り上がるのがわかった。そこには溢れんばかりの愛があった。あいつらとファンが紡いだ絆が確かに見えた。
 「いつきー」「れんー」と飛び交う黄色い歓声が、俺の小さなプライドを粉々に砕いていく。