推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 私と同じように蓮の思惑に気づいたのか、成瀬さんが困惑顔で蓮の首根っこを掴み、ステージ中央へ連れ戻す。
 まるでコントのような仕草は、ファンにはただの余興に見えているだろう。
「気が済んだか?」
「あぁ。ここは完全なるアウェイだ。……でも、ライバルとしては不足無しだな!」
 蓮は不敵に笑う。
 メンバーがやれやれといった様子で蓮を舞台袖へ追いやると、会場から笑いと拍手が沸き起こった。
 私はというと、心臓がバクバクして拍手どころではない。
(蓮ってば、なんてことをさせるの!? みんなの前で……。成瀬さんも困ってたじゃない!)
 恥ずかしさで顔が熱くなる。
 でも、少し嬉しくもあった。
 きっと、これも蓮なりのファンサービス。私のことを応援してくれているのだと思う。
 それでも、やっぱり恥ずかしい。きっと頬は真っ赤だろう。
 深く息を吐いて気持ちを落ち着かせ、ステージを見る。
 すると、成瀬さんがこちらを見て優しく微笑んでいた。
 唇が「ありがとう」と動いたように見える。
 気のせいかもしれない。
 でも、本当にそう言ってくれたのなら、それだけで十分だった。
 ライブは後半戦へ。
 成瀬さんのソロパートでは、一際大きな歓声が上がる。
 まっすぐで力強く、それでいて優しい歌声が胸に響いた。涙がまたこぼれそうになる。
 この人を、ずっと見ていたい。
 彼がこれからも夢に向かって進めますように。
 その道が、光に満ちたものでありますように。
 祈るように手を合わせながら、私はステージを見つめた。
 ライブが終わりへ近づいても、胸の熱は冷めるどころか、ますます強くなっていく。
 私は、これからも成瀬さんを推し続ける。
 誰よりも熱く、誰よりも真剣に。
 いつかまた、あの言葉をもらえる日まで。
 仕切り壁の向こう側で。時にはこうして近くで見守りながら。
 いつも、精一杯推し事に励もう。
 だって、それが私が届けられる、一番の愛のかたちだから。

〜fin〜



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『推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー』を最後までお読みくださりありがとうございます。
これにて本編は完結です。
……ですが、次ページより前日譚の短編をお届けします。
短編を読むと、きっと千紘×成瀬の出会いをもう一度見たくなるはず。
是非もう少しだけお付き合いくださいませませ。