推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 蓮はニヤリと笑い、こちらにひらひらと手を振っている。
 私は反射的に振り返した。
 まさか、ここで蓮推しの本能が発動するとは。
 そんな私を見て、蓮は愉快そうに笑った。
 会場が盛り上がる中、成瀬さんがこほんと咳払いをする。
「え〜、偶然ライブを観にきていたScorpio(スコルピオ)|の影山蓮くんに、スペシャルゲストとしてステージに上がってもらいました」
 会場から再び歓声が上がる。
 紹介された蓮は、四方八方に手を振って笑顔を振りまいた。
 さすが長年アイドルをやっているだけあって、ファンの煽り方が上手い。MCにまだ慣れていないOrion(オリオン)|のメンバーを引っ張るように、会話を広げていく。
「なぁ、俺ちょっと聞きたいんだけどさ。本当のところ、俺とOrion(オリオン)|のメンバー、どっちが人気あるか聞いてみていい?」
「はぁ? 俺たちのライブに来てくれてるんだから、そんなのわかりきってるだろ」
 成瀬さんは呆れ顔。他のメンバーも頷いている。
 それでも蓮はお構いなしにステージを歩き回り、ファンを物色する。
 ファンたちも、ここぞとばかりにうちわやペンライトを振ってアピールする。
 蓮はうちわの名前やペンライトの色を見ながら、ファンが偏らないよう次々と声をかけていく。
「くっそ〜。俺のファンはいないのかよ」
 ひと通りファンと絡んだあと、わざとらしく嘆く。
 会場が笑いに包まれる中、蓮は満足そうに笑いながら私の前まで来て、ピタリと足を止めた。
「よし! じゃあ、最後の一人! あなたの好きな人は誰ですか?」
 そう言って、私を指差す。
 私はぽかんとしたが、すぐに我に返った。
 蓮がじっとこちらを見ている。その肩越しには、成瀬さんの視線も感じる。
 突然のことに混乱しながらも、私はうちわとペンライトを持ち直した。
 そして、会場中に響けとばかりに叫ぶ。
「な、なるちゃん!」
 うちわと水色のペンライトを高く掲げる。
 すると蓮が、一瞬ニヤリと笑った。
「よく言った」とでも言いたげな表情に、心臓が跳ねる。
 まさか――。
 初めから、私に言わせるつもりだったの?