推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 だけど私は、ペンライトを振ることも歓声を上げることも忘れ、ただ成瀬さんを見つめていた。涙が頬を伝っていることにも気づかないほど、胸がいっぱいだった。
 私の想いは、ちゃんと成瀬さんに届いている。
 そして、それが彼の力になっている。
 推しとヲタクは基本一方通行だ。
 どれだけ想っても、住む世界が違う推しに、その想いが本当に届くことなんて夢のような話。
 だからこそ、その一方通行の想いが交わり、「ちゃんと聞こえている」「ちゃんと届いている」と伝えてもらえることが、ヲタクにとってどれほど嬉しいことか。
 自分が推しの力になれていると実感した瞬間、これ以上好きになれないと思っていた気持ちが、また更新されていく。
 アイドルを応援するのは、楽しいことばかりじゃない。辛いことも苦しいこともある。
 それでも推し続けたいと思えるのは、こうした奇跡のような瞬間に心を揺さぶられ、推しの頑張る姿から勇気をもらえるからだ。
 未来を真っ直ぐ見つめる成瀬さんを見ながら、私は手首のハンカチをぎゅっと握った。
 これからも成瀬さんが夢に向かって走り続けられるように、私は彼を推し続けたい。
 そう心から思った。
 ――そのとき。
「な〜んかカッコつけたこと言ってますけど、Scorpio(スコルピオ)|のライバルである以上、いつだって全力でやってもらわないと、俺たちScorpioが困るんですけど〜」
 突然ステージに乱入してきた蓮が、成瀬さんの肩に腕を回してニヤリと笑う。
 成瀬さんは恥ずかしそうに笑いながら、その腕を振りほどいた。
 予想外の展開に、会場が一気に沸く。
 大きな拍手と歓声の中、私は思わず口を開けたまま二人を見つめた。
 思いがけない推し同士の絡みに、涙はすっかり引っ込んでしまう。
 Orion(オリオン)|のライブで、まさか蓮に会えるなんて!
 蓮は成瀬さんの頭をくしゃくしゃに撫でたり、肩を組んだりと、いつも以上にじゃれついている。
 呆然と二人を見つめていると、ふいに蓮がこちらを見た気がした。