推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 会場に近づくにつれ、胸の鼓動が少しずつ速くなる。駅の改札を抜けると、可愛く着飾り、応援グッズを手にした人たちが目に入った。
 今日は、成瀬さんの所属するOrion(オリオン)|の初ライブ。
 あの日、ベランダで交わした約束から数ヶ月。Orion(オリオン)|がデビューして、まだ一年も経っていない。それなのにもうライブをするのだから、事務所から期待されているのだろう。
 とはいえ、会場のキャパはScorpio(スコルピオ)|と比べればまだ小さい。
 それでも、ファンは今日を心待ちにしていた。
 開場前だというのに、会場周辺にはすでに大勢の人が集まっている。もちろん、お目当てはライブグッズだ。
 オンラインでも買えるけれど、やっぱり当日に現地で物色するほうが気分が高まる。
 物販テントには、Tシャツやタオル、アクリルスタンドやキーホルダー、ペンライトなど、さまざまなグッズが並んでいる。
 どれも気になるけれど、私のお目当ては決まっていた。
 推しの写真が大きくプリントされた、うちわだ。
 季節は冬へ向かっているけれど、推しを応援するのに季節は関係ない。私は成瀬さんと、もう一人のメンバーのうちわを一枚ずつ購入した。
 それから待ち合わせ場所へ向かうと、すでに由紀さんが待っていた。私を見つけるなり、ブンブンと大きく手を振る。
「千紘ちゃーん。こっちこっち」
 駆け寄ると、私は購入したうちわを差し出した。
「お待たせしました。これ、啓太のうちわです」
「うわっ、ありがと〜。やっぱ良いわ。啓太。この角度最高!」
 由紀さんは嬉しそうにうちわを掲げ、じっと眺めている。その目は完全にハートマークだ。
 思わず苦笑してしまう。
「樹もそうでしたけど、由紀さんってクール系が好きですよね」
「好きなタイプはそうそう変わらないわよぉ。……って、千紘ちゃんは違うか。蓮となるちゃんだもんね。真逆のタイプっていうか」
 その指摘に、私はチッチッチと人差し指を振ってみせる。