推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 この想いは止められそうにない。
 ううん、止めたくない。
「私、推し事めっちゃ頑張ります。誰よりも熱く、誰よりも真剣に、成瀬さんを推します」
 成瀬さんの目を真っ直ぐ見て宣言する。
 推し事は誰かと張り合うものじゃない。それでも、成瀬さんを応援する一番のファンでありたい。
 拳を握って「よしっ」と気合を入れると、成瀬さんは一瞬目を丸くし、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「うん。俺も頑張るよ。石川さんに、ずっと応援してもらえるように。いつか、“推し”じゃなくて、“好きな人”として、隣にいてもらえるように」
 その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
(やっぱり、成瀬さんはずるい)
 こんなふうに、希望を残してくれるなんて。
「……はい。楽しみにしてます」
 恥ずかしくて小さくなった声も、成瀬さんはちゃんと聞き取ったらしい。クスッと笑う声がする。
 その余裕たっぷりの笑みに、少し悔しくなる。
 でも、そんな成瀬さんもやっぱり好き。
(つくづく、私は成瀬陽一という人にハマってしまったらしい。これからもきっと、この人という沼から抜け出せないのだろう)
 そう思ったとき、成瀬さんの携帯が鳴った。
 画面を確認した成瀬さんが、すまなそうに私を見る。
「蓮から。ちょっと出てもいい?」
「あ、はい! じゃあ、私はこれで」
 もっと話していたいけれど、電話の内容を聞くのも気が引ける。
 室内へ戻ろうとすると、成瀬さんに「待って」と引き止められた。
 携帯を耳に当てたまま、「待ってて」とジェスチャーする。
 私は素直に頷いた。
 電話中の成瀬さんは、ちょっとぶっきらぼうだ。
「あぁ」とか「うん」と短い返事を繰り返していたかと思えば、「あ~、それね」と急に気まずそうな声を出した。
「……振られたわ」
 思いがけない言葉に目を見開く。
 成瀬さんを見ると、彼は苦笑しながら携帯を私に差し出した。
「えっ?」
「蓮が、石川さんに代わってほしいって」
 戸惑っていると、成瀬さんは「早く」と言うように、さらに携帯を突き出してくる。
 仕方なく受け取り、そっと耳に当てた。
「も、もしもし?」