推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 涙を乱暴に拭い、ニカリと笑ってみせる。
 そんな私を見て、成瀬さんは深く息を吐き、頭を抱えた。
「本当は、まだ言うつもりなかったんだ。もっと自分に自信が持てるようになってから。石川さんが俺だけを見てくれるようになるまでは、って」
 そう言って、もう一度ため息をつく。
 しばらくの沈黙の後、顔を上げた瞳に、もう切なさはなかった。
「グループデビューが決まって、急に忙しくなってさ。最近はずっと余裕がなかった。きみと話したい。最近はそればかり考えてた」
 成瀬さんはふっと笑う。
「だから今日、ベランダにきみの姿を見つけて、慌てて帰ってきた。本当は、いつもみたいに、なんでもない話をするつもりだったんだ」
 そして、少し不貞腐れたように唇を尖らせる。
「それなのに、きみがあんなに可愛く煽ってくるから」
 子供っぽく恨みがましい目を向けられ、急に恥ずかしくなる。
「わ、私のせい?」
 たじろぐ私を見て、成瀬さんはクスクス笑った。それから姿勢を正し、真っ直ぐ私を見つめる。
「うん。俺がフラれたのは、石川さんのせい」
「違う。振ってなんか……」
 抗議しかけた私を遮るように、成瀬さんが続けた。
「いや。いいんだ、これで。きみの選択は正しいよ」
 そう言い切って、穏やかに続ける。
「さほど知名度のない俳優だった頃ならともかく、アイドルになった以上、俺は恋愛はタブーだと思ってる」
 私は黙って成瀬さんを見つめた。
「バレずに彼女をつくる奴もいる。それがいいとか悪いとかじゃなくて。俺は、そんなに器用じゃないから。多分、ボロが出る」
 一度言葉を切り、成瀬さんは私を見る。
「彼女の存在が……石川さんのことが世間に知られたら、俺のせいできみにもファンにも嫌な思いをさせる。そんなのは嫌だから。だから、これでいいんだよ」
 成瀬さんは、全てを受け入れたように微笑んだ。
(ああ、もうこの人を好きでいることはやめられない。私は、成瀬さんのこういうところに弱いのだ)
 どこまでも誠実で、真面目で。そんなところが本当にかっこよくて、愛おしい。
「やっぱり、私の推しは誠実な人だった」