推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 言いづらそうに問い返す成瀬さんに、私はコクンとうなずく。
「もちろん! いつ? どこが? どれくらい? 女の子は、そういうことを言ってほしいんだよ」
 私の勢いに気圧されたのか、成瀬さんの瞳が泳ぐ。
「……そういうものなの?」
「そういうものなの!」
 力いっぱい頷いてみせたけれど、他の女の子がどうかなんて知らない。
 ただ私は知りたかった。いつから、成瀬さんが私を見てくれていたのか。
 成瀬さんは困ったような顔をしていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「多分、出会った時から」
「え?」
 思わず聞き返すと、成瀬さんは恥ずかしそうに視線を逸らした。
 必要最小限しか語らない彼の耳が、真っ赤になっている。
 それだけで十分だった。
 私を喜ばせるための方便じゃない。きっと本当なんだ。
 口元が緩む。
 ニマニマしながら見つめていると、成瀬さんは髪をかきあげるふりをして、居心地悪そうに顔を隠した。
 それでも私は追及する。
「出会ったときって、あの日ですよね? 鞄を直してくれた、当落発表の日。もしかして、一目惚れしたから声をかけてくれたんですか?」
 まるで他人の恋路を詮索するように、ウキウキと尋ねる。
 成瀬さんは前髪をかきあげたまま、困ったように笑った。
 その仕草が、やけに色っぽい。
 思わずクラッとして、慌てて視線を逸らす。頬が熱くなる。
「や、やっぱり答えなくていいです! 今のなしで!」
 追及したくせに、あっさり撃沈した私を見て、成瀬さんがクスクス笑う。
「そうだね。きっと一目惚れだったんだと思う。きみの魅力に惹かれた。だから、思い切って声をかけた」
 あっさり肯定され、顔から火が出そうなほど熱くなる。
 まさかの不意打ち全肯定。
 そんなことを素で言ってくるなんて、反則すぎる!
 恥ずかしくて顔を上げられない。
 形勢逆転した私を、成瀬さんは余裕の笑みで見つめている。
「あとは、なんだっけ? 女の子には何を伝えなきゃいけないんだっけ?」
「……もう十分。もういいですから」
「そお? でも俺、きみに意識してもらうところから始めなきゃいけないからさ。恥ずかしいけど、必要なら言うよ?」
 いつもより少しだけ意地悪な声。
「成瀬さんって、案外意地悪なんですね」