推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 彼の視線の先には、私の知らない世界がたくさん見えているのだろう。
「……すごいなぁ、成瀬さん」
 思わずこぼすと、成瀬さんは「何が?」と首を傾げた。
「夢、ちゃんと叶えてるんだなって。努力は裏切らないってことを、ちゃんと体現してる」
 成瀬さんは少し目を細める。
「まだまだ途中だよ。叶ったっていうより、やっとスタートラインに立てたって感じ。それに、今の俺がいるのは石川さんに背中を押してもらったおかげだから。石川さんがいなかったら、俺はここにいなかったよ」
 そう言って、ふわりと笑う。
 その言葉が優しく胸に響き、欲張りになりそうな自分に慌ててブレーキをかけた。
「そんな、大袈裟。言い過ぎだよ」
 茶化して誤魔化そうとしたとき、成瀬さんが真剣な声で私の名前を呼んだ。
「ねえ、石川さん」
 心臓が跳ねる。
「は、はい?」
 上ずった声で返すと、成瀬さんは真っ直ぐ私を見つめた。
「俺、これからもっと忙しくなると思う。せっかく掴んだこのチャンスを、必ずモノにするって決めてるから。よそ見なんかしない。死に物狂いで、食らいついてやるって腹を決めてる」
 いつもの飄々とした成瀬さんとは違う。覚悟に満ちた強い眼差し。
「うん。私も全力で応援するよ」
 笑顔で答えると、成瀬さんは少し困ったような顔をした。
「俺、本気でScorpio(スコルピオ)に、蓮に勝ちに行こうと思ってるけど、石川さん的には本当にそれでもいいのかな?」
 探るような視線に、私は困惑して首を傾げる。
「い、いいですよ。ライバルなんでしょ? 切磋琢磨していくんでしょ? ぜひバチバチやって、上を目指してください。きっと蓮だって、そんなに簡単には負けないと思いますから」
 答えを聞いた成瀬さんは、ふぅと大きく息を吐いた。
「やっぱりまだ蓮か……」
 少し拗ねたような表情。その意味がわからず、胸の奥がざわつく。
 成瀬さんはそんな私を、強い光を宿した瞳でじっと見つめた。