推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「石川さんが泣きそうな顔をしてるから」
 その優しい声に、私は何も言えず彼を見つめた。
 がっつり子供扱いされているけれど、不思議と嫌じゃない。
 それどころか、ぎこちない手つきで撫でてくれるのが嬉しくて、たっぷり堪能する。
 これも隣人特権ってことでいいよね?
 しばらく撫でたあと、成瀬さんは私の様子を確かめるように微笑んだ。
「落ち着いた?」
 コクンとうなずくと、いつものほんわかした笑顔を見せてくれる。
 ああ、やっぱり好きだ。この笑顔。
 見とれていると、成瀬さんは照れたように頭を掻いて視線を逸らした。
 その視線を戻したくて、私は慌てて口を開く。
「あっ! そういえば、私もまだお祝いを言ってませんでした。グループ結成、おめでとうございます!」
 成瀬さんは再び私を見て、照れくさそうにはにかんだ。
「ありがとう」
「それで、グループ名はなんて言うんですか?」
「え?」
「グループの動画配信を観てたら、急に成瀬さんが現れるんだもん。全然観れてないんです」
 唇を尖らせると、成瀬さんは困ったように笑った。
「ごめん。なんか邪魔したみたいで」
「大丈夫! これから本人に教えてもらうから。ね?」
 成瀬さんは少し驚いたように目を丸くし、それからふっと笑った。
「そうだね。じゃあ、改めてご報告します」
 ベランダの手すりに軽く背を預け、少しだけ真面目な顔になる。
「Orion(オリオン)って言うんだ。俺たちのグループ名」
「オリオン? オリオン座の?」
 成瀬さんが小さくうなずく。
 夏の星座である蠍座と対をなす冬の代表星座。蠍座とオリオン座はライバルと言われることもある。まさに彼らの関係にぴったりの名前だ。
「すごくいい名前ですね」
 そう言うと、成瀬さんは嬉しそうに笑った。
「俺も気に入ってる。Scorpio(スコルピオ)のライバルってことで星座繋がりにしたのもあるけど、オリオン座って結構誰でも見つけられるだろ? そんなふうに、多くの人に知ってもらえるグループになりたいんだ」
 そう語る成瀬さんの目は、真っ直ぐ未来を見つめていた。