推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 そう言って意味深なキメ顔をする成瀬さんに、またメンバーからツッコミが飛ぶ。
 そんなやりとりを見ていると、日増しにグループの結束が強まっているのだと、妙に感慨深くなる。
 苦楽を共にしてデビューを目指してきたわけではない。それでも、メンバー同士の距離は確実に縮まっているようだった。成瀬さんを中心に、皆が楽しそうに笑い合う。
「いいなぁ」
 思わず呟いた。
 私も、成瀬さんの笑顔を間近で見たい。
 動画を一時停止し、笑顔の成瀬さんを拡大する。
 ……こんなことしたって、物理的に距離が近くなるわけじゃないのに。
 画面の中の成瀬さんは、相変わらずキラキラした笑顔を向けてくる。
 でも、現実は……。
 落ち込んだ気持ちを立て直そうと視聴を再開した、そのときだった。
 微かな物音が聞こえた。
 成瀬さんの部屋から?
 慌てて動画を止め、耳を澄ます。心臓が予感したようにドキドキと脈打つ。
 バタン、とドアが閉まる音。
 続いて慌ただしい足音がして、ベランダへ続く窓が乱暴に開いた。
 次の瞬間、私の隣に成瀬さんがいた。
 突然のことに固まった私を見て、成瀬さんはぎこちなく笑い、手を挙げる。
「やぁ、石川さん。ひさしぶり」
「……なんで? なんで成瀬さんがここにいるの?」
 思わず口にすると、成瀬さんは困ったように眉を下げた。
「なんでって。ここ、俺の家だし?」
「……それはそうだね」
 曖昧に相槌を打つけれど、頭が追いつかない。
「あれ? 髪黒い」
 またもや的外れな言葉が口から飛び出した。
 成瀬さんは可笑しそうに笑い、長い指で自分の髪を摘む。
「ああ、ドラマ出演が決まってね。役に合わせて黒にしてきたばかり。変?」
 私は思わず手を伸ばし、彼の髪に触れた。
「明るい色も似合ってたけど、黒も素敵。大人っぽくて落ち着いてて好き」
 暴走する隣人の手を、顔を赤らめた成瀬さんが優しく引き剥がす。
 困惑した表情のまま、彼がスッと私の顔を覗き込んできた。