推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 でも、状況からして笑顔でいるのは不自然だと思った。
 長年の思いが報われなかったのだ。私なら、きっと泣く。
 なのに、どうして?
 けれどすぐに、成瀬さんの思いに気がついた。
 彼はつかの間でもアイドルであろうとしているのだ。いつでも笑顔でいる。それがアイドル。悲しい顔を見せてはいけない。画面越しに、彼のプロ意識を感じた。
 表舞台に立つことをこれほど意識している人でも通れないほどの狭き門。芸能界の厳しさを改めて思い知る。
 涙がとめどなく溢れてきた。
 ひどいよ、蓮。成瀬さんの良さを誰よりわかっていたはずなのに。どうして、成瀬さんを選んでくれなかったの?
 止まらない涙で画面がぼやける。それでも悔しくて、画面を睨みつけた。
 画面の中では、佐久間翔太が涙ながらに挨拶をしていた。
 蓮は彼に拍手を送ると、オーディションの締めくくりに向けて口を開いた。
「今日から俺たちは新生Scorpio(スコルピオ)として新たな一歩を踏み出します。これまで応援してくれたスコッコのみんな、そして新たにスコッコの仲間入りをしたみんな。これから俺たちはトップを目指します! 死ぬ気でやります! だから、今まで以上の応援よろしくお願いします!」
 会場は拍手と歓声で埋め尽くされた。
 私もスコッコなのに……。今は、その波には乗れない。
 そう思うほど、心の中は嵐のように荒れていた。
 蓮のバカ。大っ嫌い!
 心の中で何度も叫んだ。それでも涙は止まらなかった。
 やがて拍手が止むと、再び蓮の声が響いた。落選した四人への労いの言葉だった。
「投票の結果をみてもわかる通り、みんなの魅力はちゃんとファンに届いています。もちろん俺たちにも。これまでのオーディションへの取り組み方。未来へかける意気込み。それぞれの思いを俺たちは間近で見てきました。だからこそ、今どれほど悔しいかもわかるつもりでいます」
 蓮の言葉に、落選者たちの顔がみるみる歪んでいく。
 そんな中、成瀬さんだけが微動だにせず、じっと蓮を見つめていた。
 蓮は続ける。
「今回俺たちは翔太をグループに迎え入れたけど、決して皆に魅力がなかったわけではありません。むしろめちゃくちゃ魅力的で、俺なんかはオーディションの間、刺激を受けっぱなしでした。そんな皆とは、これからも刺激し合える仲でいたい」
 そこまで言うと、蓮は一度言葉を切った。
 彼らを真っ直ぐに見据え、スッと息を吸う。