推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 成瀬さんはそう言うと、優しく目を細めた。
 その笑顔にまたドキッとする。
「……応援してます」
 今度は控えめにそう言うと、成瀬さんは嬉しそうに頷いた。
 その笑顔は、出会ってから今日までに見た中で一番晴れやかなものに見えた。
「……俺、石川さんに出会えてよかった」
 ぽつりとこぼれたその言葉に、胸がじんと熱くなる。「出会えてよかった」と思ってくれていることが、何より嬉しかった。
「でも私なんて、なんの力もありませんよ? 芸能界にコネなんてありませんし、願いを叶える特別な能力も残念ながら持ち合わせていませんけど?」
 私はわざと茶化すようにそう言った。
 だけど、成瀬さんはどこか複雑そうな表情を浮かべる。
 調子に乗って、何か気に障ることを言ってしまっただろうか?
 内心でそう不安になっていると、成瀬さんは言いにくそうに口を開く。
「別に、石川さんにコネとかそんなことは望んでないよ。これは俺自身の力で切り拓かなきゃ意味がないことだから。ただ俺は、石川さんの応援が欲しいんだ。完全に俺のわがまま」
 成瀬さんは言葉を切ると、少しだけ視線を遠くに向けた。そして、まるで心の奥にしまっていた本音を差し出すように、ゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ。
「だけど、それがどんなに心強いか……。きみがここで蓮を叱咤していたあの日、本当にそう思ったんだ。きみの言葉はいつだって力強い。きみの言葉にはきっと、人を奮い立たせる力があるんだ。だから、その力で俺を奮い立たせてほしい」
 成瀬さんの言葉はとても真っ直ぐで、私の心に深くじわじわと染み込んでいく。
 私は思わず泣きそうになった。
 これは、もしかして推しからの最大の賛辞なのでは?
 私は嬉しさのあまり言葉が出なかった。
 涙をこらえていると、成瀬さんの唇が遠慮がちに動く。
「だからお願い。俺を見ていて」
 成瀬さんの瞳が私を映す。
 その瞳はどこか切なげだ。縋るような眼差しに、胸がぎゅっと締めつけられる。
 そんなに必死な顔をしなくても、あなたを推すと決めたあの日から、私はあなたのことをずっと見ているというのに。
 いや、推しとしてだけじゃなくて、もっと別の感情も混じっているのだけど。
 でもそれは伝えることができない。
 伝えてしまったら、私たちの関係は変わってしまうから。
 私が黙っているからか、成瀬さんの瞳が不安げに揺れている。
 そんな目で見つめられたら断れるわけがない。そもそも断るなんて選択肢は初めからないのだけど。