推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 心からの思いを伝えたくて、必死で言葉を積み重ねた。
 けれど、ふと我に返ると、恥ずかしさが一気に込み上げてきた。
 なんだかこれって告白をしているみたいだ。……いや、みたいじゃなくて、実際そうなのかもしれない。
 私は急激に顔に熱が集まるのを感じた。
 慌てて成瀬さんから視線を外すと、そのまま足元に視線を落とす。
 私が一人で悶えていると、しばらくして小さな声で「ありがとう」と聞こえた。
 その声に恐る恐る顔を上げると、成瀬さんと目が合う。彼は照れくさそうに微笑んだ。
「……そんなふうに言ってもらえるなんて、思ってなかった」
 その声は少し震えていた。
 私は何も言えず、ただ成瀬さんの顔を見つめる。彼の瞳は、どこか潤んでいるように見えた。
「俺、ずっと石川さんに応援してもらいたいと思ってたんだ。だから、すごく嬉しいよ」
 いつもの成瀬さんの笑顔。つきものが落ちたようにすっきりとした顔。
 だけど私はその顔を見て、はてと首をひねった。
 ……ん? 応援してもらいたい? それってまるで、これまでは応援してなかったみたいな言い方じゃない? 私はずっと成瀬さんを推していたのに。
 そこで、はたと気がついた。
 私は今まで一度も成瀬さん本人に推しだと言ったことがない。
 それどころか、隠していたのだ。嫌がられたり、気持ち悪がられたりしないように。
 だけど……。もしかして私の推し活って、もう隠す必要ないってこと?
 そう思ったら、全身の力が抜けたような気がした。
「成瀬さんは、私の推しですよ。応援するに決まってるじゃないですか」
 自分でも驚くほど静かな声だった。
 それでも、成瀬さんにはしっかりと届いたようで、目を丸くした。
「え、だって石川さんは蓮が」
 私はこくりと頷く。
「でも、推し活に一人しか好きになっちゃいけないなんてルールはありませんから。好きになったら、その人を全力で応援する。それが推し活唯一のルールですよ」
 私は成瀬さんの目をまっすぐ見つめる。
「隣人として仲良くしてもらっているのに、ファンだなんて言ったら距離感おかしくなるかなって。だから、言えなかったんです」
 成瀬さんはしばらく黙っていた。それから、ぽつりと呟いた。
「……嬉しいよ。石川さんが俺のこと、そんなふうに見てくれていたなんて」
 伝えられた嬉しさと、伝えきれていない苦しさ。それらが混ざり合って、胸がいっぱいになった。
 だけど、成瀬さんの笑顔を間近で見られること。それが全てだと思えた。