推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 彼は私の手の届く存在なんかではない。蓮と同じ、煌びやかな世界に生きる人。
 そう思うと、切なくて苦しくて、胸が痛かった。
 のろのろとベッドから起き上がり、買ってきたばかりのパンフレットを手に取る。
 観賞用と保存用、そして布教用。それぞれの用途のために三部購入しただけれど、今は誰にも布教したくない。誰にも成瀬さんのことを知ってほしくない。これ以上、私の手の届かない存在になってほしくない。
 そんなことを思う私は、ファン失格だ。
 パンフレットの中の成瀬さんを見つめる。爽やかな笑顔が、私の胸を締め付ける。
 そんなに素敵に笑いかけないで。そんなに素敵な顔を見せないで。誰にも見つけられないで。
 私はパンフレットの成瀬さんにそっと触れる。
 そこに、あの優しい温もりはもちろんない。
 あぁ、成瀬さんに触れたい。あの温もりを感じたい。
 そう考えた瞬間、胸がズキンと痛んだ。同時に涙がこぼれ落ちる。
 ……推しにガチ恋なんかして、私はなんてバカなんだ。わかっていたはずなのに……。
 成瀬さんがあまりにも自然に私に笑いかけてくれるから、住む世界の違う人だってことを、いつの間にか忘れていた。
 私はただの隣人で、ただの成瀬さんの隠れファンだったのに。
 今日はこれまで知らなかった成瀬さんを見られて嬉しかった。だけど、それ以上に自分との距離の遠さを思い知って、つらくなった。
 こんな気持ち、知りたくなかったよ。
 私はパンフレットを抱き締めながら、声を押し殺して泣いた。
 成瀬さん……もっと近くで話がしたいよ。もっと近くに……。
 そんな私の胸の内は隣人には届かない。
 結局、日を跨いでも隣室に帰宅の音は響かなかった。