その夜。司令部での事務仕事を終えたレイモンドは、馬車に揺られ屋敷へと向かっていた。
石畳を叩く馬蹄の音が、静まり返った街路に規則正しく響いている。馬車の車内は薄暗く、揺れに合わせてランタンの灯がゆらゆらと揺れていた。
レイモンドは背もたれに深く身を預け、窓の外を無言で眺める。
(マルケス大尉が復帰か。これで、明日からはソフィアと夕食を共にできる)
そう思うと、この一週間の激務の疲れも吹き飛ぶようだった。
けれど、その喜びは長く続かない。
昼間、エミリオの口から出た『ヴァーレン商会』と『サーラ・レーヴ』。その言葉が、レイモンドの横顔に暗い影を落とす。
(ヴァーレン商会は多くの事業に手を広げている。あの商会と取引のない貴族などないに等しいだろう。つまり、彼女がヴァーレン商会と繋がりを持っていたとしても、何ら不自然ではない。……だが)
それでも、どうしても気になってしまう。
商会とソフィアの関係が、単なる店と顧客である可能性が高いと分かっていても、一度抱いた疑いは無くならない。
この感情をソフィアに知られれば、彼女との関係を悪化させると理解しているにも関わらず。



