旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 その頃、レイモンドは首都内の訓練場にて射撃訓練を行っていた。

 午後の陽射しが射場の砂地を白く照らしている。
 射撃線上では、分隊員たちが訓練用小銃を肩に構え、標的を睨んでいた。

 レイモンドは射撃姿勢を一人ひとり確認して回る。

「三番! 銃口が下がっているぞ! もっと上げろ!」
「そこ、頬付けが甘い! 五番は息を止めすぎだ! 酸欠で倒れたいのか!」
「十二番、どこを狙ってる! 外せば船が沈むと思え!」
「どいつもこいつも、やる気のない奴は一兵卒からやり直してこい!」

 低く通る罵声が射場に響く。
 次の瞬間、「放て!」と言う号令とともに一斉射撃。
 乾いた銃声が連続し、硝煙の匂いが風に乗って漂った。

 標的の確認を終えると、レイモンドは手を上げて合図を送る。

「休止! 安全装置を掛け、銃口を下げろ!――休憩十分、水分補給を忘れるな!」

 兵たちは小銃を肩から下ろし、弾倉を外して安全を確認すると、三々五々日陰へと散っていった。
 レイモンドもタオルで首筋の汗を拭い、深く息を吐く。


 そのとき、別方向から軽い足音が近づいてきた。

「は~、相変わらず鬼教官だな。俺、お前と別の隊で良かったわ」

 そんな声とともに現れたのは、エミリオだった。
 レイモンドは眉をひそめる。

「何しに来た。まだ訓練中だろ。持ち場に戻れ」
「俺も休憩中なんだって。それより聞いたか? マルケス大尉、明日復帰するらしいぞ。これでようやく定時で帰れるな! いや~、よかったよかった!」

 エミリオは笑いながら、レイモンドの背中をバシバシと叩く。

 ここしばらく、レイモンドは第三沿岸防衛隊中隊の指揮官、マルケス大尉の代わりに、臨時指揮官を兼務していた。
 マルケス大尉がぎっくり腰で休養に入って以来、自身の隊務と中隊の指揮を掛け持ちする日々が続き、帰宅はいつも遅かった。

「そうか」

 短く返すレイモンド。
 だが、その声音に喜びはない。
 エミリオは怪訝そうに眉を上げた。