自分で口にして、ソフィアは言いようのない不安とショックに襲われた。
アリスは慌てて否定する。
「考えすぎですよ! 確かにイシュ様にお渡ししている情報は重要なものばかりですが、だからって、イシュ様が奥様の気持ちを無下にするはずがありません。それに、もし本当にそうなら、帝国で奥様が暮らす家やお店や従業員の手配なんてしないはずでしょう?」
その言葉に、ソフィアはホッと安堵する。
「そうよね。アリスの言うとおりだわ」
「そうですよ。イシュ様はただ、最近の旦那様の行動や新聞の内容を見て、奥様にここに残りたい気持ちがあるのか確認しにいらしただけだと思います。本心では帝国に来てほしいけど、まずは奥様の気持ちを優先したいという葛藤があったのではないでしょうか。昔も、奥様に迷いがあるときは、必ず一度立ち止まってくださいましたよね。ですから、今回もきっと」
ソフィアは頷き、唇にかすかな笑みを浮かべた。
「ということはつまり、イシュにはわたしに迷いがあるように見えているということなのね。まぁ、最近のわたしの行動を見れば、当然かもしれないけれど……」
そう呟いて、日傘を少し傾けると、眩しそうに空を仰ぐ。
「契約満期まであとひと月と少し。そろそろ、本格的に離縁の準備をし始めないと間に合わないわね」
青空の向こうに、まだ見ぬ帝国の街並みが、蜃気楼のように揺らめいて見えた。



