(イシュには、感謝してもしきれないわ。きっと、本当にわたしのことを心配して来てくれたのよね)
そんなイシュを、責めるわけにはいかない。
「心配させてごめんなさい。でも大丈夫よ。困ってるってほどのことではないから」
ソフィアは微笑む。
すると、イシュは目を細めた。
「そう? でも君、侯爵に気に入られてるんだろう? 今の調子で、本当に計画通りに離縁できるのかな」
「……!」
「引き留められてるんだよね? 離縁はしたくないって」
刹那、これまで穏やかだったイシュの声音に、わずかな探りと警戒が混じる。
ソフィアは心臓をどきっとさせながら、イシュを真っ直ぐに見返した。
「それは確かにそうだけど……でも、旦那様にはちゃんとお伝えしてあるわ。契約期間は延ばさないって」
「それはつまり、計画はそのまま進めればいいってことで、間違いない?」
「ええ、勿論よ」
「本当に?」
「……何よ。どうして、そんなこと」
イシュは小さく息を吐く。――が、すぐに微笑んだ。
「それならいいんだ。でも、一つだけ伝えておくね。もし計画を白紙に戻したければ、今ならまだ間に合うってこと」
「……え?」
「帝国に用意してある君の家も店舗も従業員も、他の客に斡旋できる。だから、もしここに残りたければ、残ってもいいんだよ、フィア」
「――ッ」
その言葉に、ソフィアはぐっと言葉を呑んだ。
どうしてイシュはこんなことを言うのだろうと、混乱した。
イシュは立ち上がる。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。大口の商談が控えていてね。君に会えて良かった」
最後にニコリと微笑んで、イシュはソフィアに背を向ける。
「待って、イシュ! 今の言葉は、どういう――」
「じゃあね、フィア。また近いうちに」
「――っ、イシュ……!」
けれどイシュはそれ以上何も答えることなく、ひとり静かに部屋を後にしたのだった。



