旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜



(イシュには、感謝してもしきれないわ。きっと、本当にわたしのことを心配して来てくれたのよね)

 そんなイシュを、責めるわけにはいかない。

「心配させてごめんなさい。でも大丈夫よ。困ってるってほどのことではないから」

 ソフィアは微笑む。
 すると、イシュは目を細めた。

「そう? でも君、侯爵に気に入られてるんだろう? 今の調子で、本当に計画通りに離縁できるのかな」
「……!」
「引き留められてるんだよね? 離縁はしたくないって」

 刹那、これまで穏やかだったイシュの声音に、わずかな探りと警戒が混じる。
 ソフィアは心臓をどきっとさせながら、イシュを真っ直ぐに見返した。

「それは確かにそうだけど……でも、旦那様にはちゃんとお伝えしてあるわ。契約期間は延ばさないって」
「それはつまり、計画はそのまま進めればいいってことで、間違いない?」
「ええ、勿論よ」
「本当に?」
「……何よ。どうして、そんなこと」

 イシュは小さく息を吐く。――が、すぐに微笑んだ。

「それならいいんだ。でも、一つだけ伝えておくね。もし計画を白紙に戻したければ、今ならまだ間に合うってこと」
「……え?」
「帝国に用意してある君の家も店舗も従業員も、他の客に斡旋できる。だから、もしここに残りたければ、残ってもいいんだよ、フィア」
「――ッ」

 その言葉に、ソフィアはぐっと言葉を呑んだ。
 どうしてイシュはこんなことを言うのだろうと、混乱した。

 イシュは立ち上がる。

「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。大口の商談が控えていてね。君に会えて良かった」

 最後にニコリと微笑んで、イシュはソフィアに背を向ける。

「待って、イシュ! 今の言葉は、どういう――」
「じゃあね、フィア。また近いうちに(・・・・・)
「――っ、イシュ……!」

 けれどイシュはそれ以上何も答えることなく、ひとり静かに部屋を後にしたのだった。