――イシュとの出会いは七年前。ソフィアが十六のとき、高等女学園に通っていた頃のことだ。
その日、ソフィアはアリスを連れ、市井の裁縫店に向かうところだった。
するとその道中、珍しい毛色の青年が往来で立ち止まっているのを見かけた。
黒に近い濃茶の髪に、金褐色の瞳――明らかに異国人だ。
(何か困り事かしら?)
身なりは良いが、この国の言葉が不自由なことを警戒してか、誰も声をかけようとしない。
だが、ソフィアはそのとき既に五ヵ国語をマスターしていたため、臆することなく声をかけ、彼が道に迷っていることを知ったのだ。
「あら、そのお店ならわたしたちの行先のすぐ近くだわ。一緒に行きましょう」
ソフィアが微笑むと、イシュはほっと頬を緩める。
「ありがとう、助かるよ。先週この国に着いたばかりで、右も左もわからなくて困っていたんだ」
「それにしては、言葉がとても流暢だわ」
「それは、僕の家が商家だからだよ。ヴァーレン商会って聞いたことない? まぁまぁ有名だと思うんだけど」
「! もちろん知ってるわ。五大商会のひとつよね? 東大陸のナシール連邦にある」
「そう。それで近頃、西大陸との交易に力を入れようってことになってさ。拠点を大きくしてこいって父の指示で、叔父と一緒に海を渡ってきたんだ」
イシュの話は、ソフィアにとって興味深いものばかりだった。
異国の文化、価値観、多様性。
ソフィアはすぐにイシュと仲良くなった。
学校帰りにこっそり街に立ち寄り、イシュとお茶をするのが日課になるほどだった。
二人は良き友人だった。
ソフィアが学園を卒業するのと同じ頃、二十二歳だったイシュは家業が忙しくなり、大陸の各地を転々とする生活を送っていたが、二人の関係が壊れることはなかった。
そんなわけで、三年前にレイモンドから契約結婚を申し込まれた際、ソフィアが真っ先にイシュに相談を持ち掛けたのは当然のことだった。



