旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 ――それは二人が三年前に交わした約束だった。

 レイモンドと離縁した後、帝国に渡る予定でいるソフィアと、その計画と実行を手助けするイシュとの関係を、周りに知られるのはリスクが高い。
 そういう理由で、二人は三年間、手紙だけでやり取りをしてきたのだから。


 不満げなソフィアの声に、イシュは再びソファに腰を下ろし、困った様に眉尻を下げる。

「当然、僕もそのつもりでいたさ。けど、どうしても君の顔を見たくなったんだ。君が困っているんじゃないかと思ってね。仕事のついでに寄らせてもらったんだよ」
「……っ、それ、どういう意味? わたしが何に困っているですって?」
「何って、離縁のことに決まってる。ここ三週間ほど、君の夫――ウィンダム侯爵が女性向けの商品を買い占めていると報告を受けてね。仕舞いには、君の名前で大量の子供用玩具が注文されたときた。これを変だと思わない方が不思議だと思わないか? フィア(・・・)

 イシュはにこりと微笑んで、ティーカップを優雅に口に運んだ。
 その微笑みは、出会った七年前からちっとも変わらない。穏やかな口調も、『フィア』と、彼だけが使う、ソフィアの愛称も。

(何もかもお見通しというわけね)

 ソフィアは小さく溜め息をついて、イシュの対面に腰を下ろす。

「確かにあなたの言うとおりだわ。この国の流通はヴァーレン商会が握っているもの。あなたに情報が渡らない方がおかしいわよね」
「そういうこと」

 ソフィアの言葉に、イシュは軽く頷いた。