旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 そんなやり取りをしていると、扉を叩く音がした。
 男性使用人の声がして、入室を許可すると、恭しく頭を下げて告げる。

「奥様、お休みのところ申し訳ございません。お客様がお見えです。先日の広場での催しについて、お礼を申し上げたいという方が」
「変ね。約束はないはずだけど。今度はどこの業者の方?」

 広場での催しに関わった業者の手配は、すべてソフィアの名前で行われた。
 そのため、この一週間、ひっきりなしに業者がお礼に訪ねてくる。

「ヴァーレン商会です。イシュ・ヴァーレンと名乗りましたが……」

 その名に、ソフィアは瞼を見開いた。

(イシュが? 彼は帝国にいるはずじゃ……。それに、屋敷に直接やってくるなんて……)

 イシュとはこれまで毎月のように手紙でやり取りをしてきたが、それすらアリスを介し、関係性が外に漏れぬ様に細心の注意を払ってきた。
 それがまさか、直接屋敷に現れるなど――。

(一体どういうつもりで……。でもイシュのことだから、きっと並々ならぬ事情があるはずよ)

 そう思ったのはソフィアだけではなかったようで、アリスも驚きを隠せず、ぱちぱちと瞬きをした。
 男性使用人は、そんな二人の様子を訝しげに見やり、気遣うように問いかける。

「お断りしますか?」

 けれど、ソフィアはゆっくりと首を振った。
 予想外の訪問とはいえ、会わない選択肢はない。

「会うわ。客間にお通ししてちょうだい」

 そう答え、ニコリと微笑んだ。