そんなやり取りをしていると、扉を叩く音がした。
男性使用人の声がして、入室を許可すると、恭しく頭を下げて告げる。
「奥様、お休みのところ申し訳ございません。お客様がお見えです。先日の広場での催しについて、お礼を申し上げたいという方が」
「変ね。約束はないはずだけど。今度はどこの業者の方?」
広場での催しに関わった業者の手配は、すべてソフィアの名前で行われた。
そのため、この一週間、ひっきりなしに業者がお礼に訪ねてくる。
「ヴァーレン商会です。イシュ・ヴァーレンと名乗りましたが……」
その名に、ソフィアは瞼を見開いた。
(イシュが? 彼は帝国にいるはずじゃ……。それに、屋敷に直接やってくるなんて……)
イシュとはこれまで毎月のように手紙でやり取りをしてきたが、それすらアリスを介し、関係性が外に漏れぬ様に細心の注意を払ってきた。
それがまさか、直接屋敷に現れるなど――。
(一体どういうつもりで……。でもイシュのことだから、きっと並々ならぬ事情があるはずよ)
そう思ったのはソフィアだけではなかったようで、アリスも驚きを隠せず、ぱちぱちと瞬きをした。
男性使用人は、そんな二人の様子を訝しげに見やり、気遣うように問いかける。
「お断りしますか?」
けれど、ソフィアはゆっくりと首を振った。
予想外の訪問とはいえ、会わない選択肢はない。
「会うわ。客間にお通ししてちょうだい」
そう答え、ニコリと微笑んだ。



