やがて馬車は減速し、見慣れた首都中央広場の馬車止めで停止した。
止まった瞬間、扉の隙間から春の陽光とざわめきが一気に流れ込んでくる。子どもたちの笑い声と、甘い香り、木槌が柱を叩くような、乾いた音が耳に届いた。
(中央広場? どうしてここに?)
不思議に思いながら、レイモンドにエスコートされ馬車を降りる。
すると真っ先に目に飛び込んできたのは、巨大な舞台だった。
広場の中央に鎮座する演劇用の舞台が、陽光を浴びて輝いていた。
「――!」
(嘘でしょう!?)
ソフィアは目を瞬いた。
その舞台が、宮廷の祝祭に用いられる本格的なものだったからだ。
幅は十間以上、深紅のビロードの幕、磨き上げられた舞台板、金の縁取りの柱、梁には房飾り――すべてが豪奢に整っている。
舞台前には椅子がぎっしりと並び、視界の端まで続いていた。周囲では大道具係や衣裳係らしき人々が、最終確認の掛け声を飛ばしている。
「だ……旦那様、もしかして、これ……」
「君の目的は子どもたちを喜ばせることだろう? どうせなら、大きい舞台の方がいいと思ってな」
「それで、ここに舞台を? では、この数え切れないほどの椅子は?」
「これだけの舞台だ。せっかくだから、首都郊外のすべての孤児院の子どもたちを招待した。広場の使用許可も取ってある」
(信じられない、ここまでするなんて!)
呆気にとられたまま、ソフィアは広場全体をぐるりと見渡した。
舞台だけではない。広場には色鮮やかな旗や花飾りが揺れ、甘い菓子や温かいスープの机まで並んでいる。
「本当に、すべての孤児院の子どもたちを招待したのですか?」
「もちろんだ。一人残らず、君の名前でな」
「もしかして、この設営や馬車の手配も……」
「当然、君の名で手配した。首都中の運送業者や建築業者、イベント業者に舞台設営の職人。シェフやパティシエ、花屋まで合わせると、七十以上の業者に依頼したか。皆快く引き受けてくれたぞ」
「…………」



