――それから二年と十カ月。
ソフィアは妻としての役目を全うした。
レイモンドを慕っていた女性たちからの嫉妬ややっかみ、嫌がらせに耐え、舅や姑、親戚一同に対して良い嫁キャンペーンを続けてきた。
レイモンドの上司や部下もきちんともてなし、夫を立てる妻を演じ続けた。それもこれも、全ては高額報酬のために。
つまり、ソフィアにとってこの離縁の申し出は至極当然のこと――だったのだが……。
「旦那様? どうかなさいましたか?」
レイモンドは、カップの縁に視線を落としたまま沈黙した。
その様子に、ソフィアは首を傾げる。
(どうしたのかしら? 急に黙ってしまって)
しばらくして、レイモンドはゆるゆると顔を上げ、低い声で言った。
「……いや、何でもない。……そのことは、考えておく」
ソフィアは若干の違和感を覚えたものの、その返答に安堵し、やわらかな笑みを浮かべる。
「はい、よろしくお願いしますね、旦那様」
――だが、このときのソフィアは知る由もなかった。
レイモンドが、婚姻継続を望んでいるということを。



