やがて、弦楽器の低い和音が響き、庭の中央に設けられた特設舞台に視線が集まった。
舞台の幕が上がり、開始の拍手が沸き上がる。
舞台すぐ前に並べられた椅子には、子どもたちが座っていた。髪には小花や羽根飾り、足元には磨き上げられた靴——いずれもこの場にふさわしい家柄の、子息・令嬢たちだ。
貴族と言えど、子どもたちは劇場に行くことはないので、皆、目をキラキラさせて舞台を見ていた。
(可愛いわね)
思わず頬を緩める。
けれど同時に、何とも言葉にしがたい感情も沸き上がった。
(孤児院への寄付を募るチャリティーなのに、ここには、当事者は誰もいない)
当然だ。当然なのだが、孤児院の子どもたちが、この舞台を見ることはない。
もしかしたら、生涯、一度も。
その違和感を、ソフィアはこれまで何度も抱いてきた。
けれど、この国の貴族社会で、そのようなことを口にすればどうなるか。説明するまでもない。
――そんなときだ。上から、レイモンドの声がする。
「退屈か? それとも、どこか具合が悪いのか?」
「――!」
顔を上げると、レイモンドが心配そうにこちらを見下ろしていた。
「ただ少し、考え事を」と微笑むと、レイモンドは微かに目を細めながら、着席する。
「何か、君の気分を害するようなことが?」
「いえ、そういう訳では……」
言いかけて、ソフィアはふと思った。
もし今のモヤモヤを伝えたら、レイモンドはいったいどんな反応をするだろうか。
貴族らしからぬ言動に呆れ果て、自分への興味を失ってくれるのではないだろうか。
――ソフィアは、周りの皆が観劇に気を取られていることを確認し、そっと唇を開く。
「旦那様、二日後の、外出先のことなのですが――」
「何だ、もう行先を決めたのか?」
意外そうな顔をするレイモンドに、ソフィアは膝の上の拳に視線を落とし、ひとつ息を吸って――告げる。
「わたくしと一緒に、孤児院へ慰問に行ってはいただけないでしょうか?」



