そんなこんなで、見知った貴族たちと一通り挨拶を交わし終えたソフィアは、空いたテーブルに腰を下ろす。
そこでようやくレイモンドの横顔を見ると、彼の口元が、いつもより緩んでいる気がした。
(……やっぱり、外出の約束のせいかしら。いつもより、機嫌がいいわ)
そんなことを考えたのも束の間、レイモンドに微笑みかけられる。
「飲み物を取ってこよう。希望はあるか?」
「いえ、特には」
小さく答えると、レイモンドは笑みを深め、颯爽と飲み物を取りに行く。
そうして、ソフィアにグラスを手渡すと、「上官に挨拶してくるよ。君はここで休んでいて」と優しく声を落とし、将校たちの座るテーブルに向かっていった。
その背中を見つめながら、ソフィアはそっと息を吐く。
(紳士、なのよね、旦那様。ずっと演技だと思ってたのに……そうじゃないとわかってからは、社交も少し、気が重い)
ソフィアは思い出す。
馬車の中で、『宝石をすべて返す』と伝えたときの、レイモンドの傷付いた表情を。
(あのとき、旦那様は明らかに素顔だった。本当に傷付いていたんだわ。だから、つい外出の誘いを受けてしまったけれど……やっぱり、出掛けるべきじゃないんじゃないかしら)
そんなことをすれば、後になって、一層レイモンドを傷付けるだけなのでは。
(かと言って断るのも……。それに断ったら、本当に宝石を海に捨ててしまいそうだもの。あんなに綺麗な宝石を捨てるなんて、そんなのもったいなさすぎる。やっぱり、外出は受け入れるしかないわよね)



