旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜



 ――言いすぎだという自覚はあった。
 けれど、宝石を返されたとして、売ることができないのは事実だ。一度でもソフィアの手に渡った宝石を、お金に換えることなどできるはずがない。

 となれば、未練と一緒に海に投げ捨ててしまうしか、方法はないだろう。

 とはいえ、ここでソフィアを困らせたいわけではない、というのもまた事実で。
 レイモンドは必死に頭を巡らせ、話をすり替える。

「――が、君の言い分も理解できる。そもそも、俺が勝手に贈ったものだ。君が望んだものでもないものを、受け取れと言われても困るのは当然だろう。だから、こうしないか?」
「……?」
「二日後、俺に一日、君の時間を与えてほしい。ふたりで、どこか出掛けよう」

 瞬間、ソフィアの両目が瞬く。

「お出かけですか? それは、社交ではなく?」
「社交ではない。私的な外出だ」
「……それと宝石に、どのような関係が?」
「君の宝石を、外出の費用に充てるんだ。レストランや劇場を貸し切るもよし。遊覧船の上で演奏会を開いたり、大型気球を手配してもいい。どうだ? それなら、無駄にはならない」
「……!」

 ソフィアの瞳が、呆れと困惑に揺れた。

「まるで新聞の紙面を飾りそうな内容ですわね」
「いいじゃないか。君はまだ俺の妻であり、侯爵夫人なのだから。もちろん、行き先は君の希望を全面的に受け入れる。――だから、な? 考えておいてくれ」 

 レイモンドの強い押しに、ソフィアは溜め息をつく。

「わかりましたわ。けれど、行先はわたくしが決めさせていただきます。それでいいですか?」
「ああ、勿論だ。二日後が楽しみだな」


 こうしてレイモンドは機転を利かせ、どうにかデートの約束を取り付けた。

 それからほどなくして、馬車は午後の陽光をまといながら、ブルックリン伯爵家の門を静かにくぐっていった。