旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 エミリオは、「ふーん」と呟いて、部屋の中央のソファにドカッと腰を下ろす。

「ところでさ、お前、最近夫人にプレゼント攻撃してるんだって? 昨日なんて、宝石店の宝石を全部買い占めたらしいじゃないか。流石にやりすぎじゃないか?」

 その声に、レイモンドは視線を机上に落とす。インク壺の縁を、ペン先でそっとぬぐった。

「百も承知だ。だが、これぐらいしなければ、彼女は俺を意識しない。それに、もしここで引けば彼女はきっと気まずく思う。そうならないためには、滑稽なくらいがちょうどいい」

 ――そう。レイモンドがこの一週間、ソフィアに執拗なまで贈り物を送っていたのは、それが理由だった。
 ソフィアに自分を意識してもらうと同時に、ソフィアに気まずくさせない方法。それが、プレゼント攻撃だった。

 エミリオはその答えを聞き、片肘をソファの背にかけてしばし沈黙する。
 しかし、数秒して、ゆるりと顔を上げた。

「お前、本気なのか?」

 その声は、いつになく真剣で。
 ――レイモンドは、頷く。

「ああ」
「だが、夫人からはきっぱり断られてるんだろう? 延長はできないと」
「……そうだ」
「なのに、こんな手段で気を引こうなんて。お前らしくない」

 レイモンドはピクリと眉を震わせる。
 ――エミリオは続けた。

「そもそも、ちゃんと考えたことあるか? 夫人は、『白い結婚』こそが最高の条件だって言ったんだろ? それってさ、夫人には、お前と離縁した後の計画がちゃんとあるってことなんじゃないのか?」
「……どういう意味だ」

 レイモンドは大きく顔をしかめた。
 エミリオが何を言おうとしているのか、正直わからなかった。

 そんなレイモンドを、エミリオは真っすぐに見据え、唇を開く。

「だからさ、夫人には好きな男がいるんじゃないかって話だよ。その男と一緒になる計画があるから、報酬の増額を提案しても、受け入れなかったんじゃないのか?」
「――!」

 ペン先が、書類の上に黒い染みをつくる。
 言葉を失うレイモンドに、エミリオは続けた。

「お前が夫人を愛しているのは理解できる。友として、応援したいさ。でも、この状況だろ。夫人との関係について、もっとよく考えた方がいいんじゃないか?」