旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 

 ——そして今。

 ソフィアは、花で埋め尽くされたダイニングのテーブルで、レイモンドと向かい合っていた。

「お気持ちは大変嬉しいのですけれど……昨日の宝石といい、少々やりすぎですわ」

 やんわりと注意したつもりだった。
 だが、レイモンドは理解していないのか、まるで褒められたかのように破顔する。

「俺の君への愛を表現するのに、過剰ということはない。本当は屋敷中を花で飾り立てようと思ったが、花を用意する時間が足りなくてな。一部屋で我慢したんだ」
「…………」

(まさか、本気で言ってるの……?)

 ソフィアは笑顔を保ったまま、内心で頭を抱える。

(本気かどうかは別として、これじゃあ、わたしが夫に散財させる悪妻みたいじゃない。こんなことなら、以前のそっけない態度の方がまだ良かったわ)

 花の香りが濃密に漂う中、ソフィアはそっと微笑む。

「ありがとうございます、旦那様。そのお心はとても嬉しいですわ。けれど、わたくしは一つ一つの花を、じっくり()でるのが好きですの。ですから次は花束一つに、旦那様のお心をすべて閉じ込めて贈っていただけると、嬉しく思いますわ」

 にこりと笑みを零すソフィアに、レイモンドは目を見開く。
 まるで本心から驚いているかのように、彼は数秒沈黙し、目を細めた。

「確かに、君の言う通りだな。俺が浅はかだった。次からは、すべて君の言う通りにしよう」
「ええ、そうしていただけると」

 ソフィアの言葉に、にこりと微笑むレイモンド。
 その微笑みが、天然か計算か——ソフィアには読めなかった。


 そもそも彼のこの行動は、本当に愛情表現なのだろうか。ただ、自分の気を引こうとしているだけなのではないか。
 敢えて困らせようとしている可能性だってある。


(あとひと月半……前途多難だわ)


 何一つ判断がつかないまま、ソフィアは内心大きな溜息をつき、ようやく食事を開始するのだった。