——ソフィアの脳裏に、あの夜の会話がよみがえる。
ソフィアは一週間前、レイモンドから、これまでのレイモンドの行動が演技ではなく、好意からくるものだったと告げられた。
そしてまた、契約延長の提案と、任地への同行をお願いされた。
レイモンドは、「返事はすぐじゃなくてかまわない。考えておいてくれ」と言って部屋を出ていこうとしたが、ソフィアはハッと我に返ってレイモンドを呼び止め、断りの返事を入れたのだ。
「任地へは同行します。けれど、延長はできません」と。
すると、レイモンドは静かに尋ねた。
「それは、俺のことが嫌いだからか?」
「いいえ。旦那様は、これ以上ないほど理想的な契約相手です。延長できないのは、わたくし個人の問題です」
それはソフィアの本心だった。
ソフィアにとって、レイモンドはこれ以上ない契約相手だった。
帝国行きの準備は進んでいるとはいえ、一、二ヶ月程度なら、延長もやぶさかではない。
例えば延長の理由が、政治的に必要なものだと言われていたなら、配慮しただろう。
けれど、延長理由が好意となると、受け入れるのは難しかった。
きっぱりと答えたソフィアに、レイモンドはしばらく何かを思案していたが、
「そうか。ならば明日からは、延長できない分の愛を、一心に伝えることにしよう。契約満了まで、“妻”としての演技を決して忘れぬように」
と意味深な言葉を残し、去っていったのである。
その言葉を裏付けるように、翌日から、レイモンドの“愛情表現”が始まった。
レイモンドは、これまで月に数回だった贈り物を、毎日のように用意してきた。
宝石、香水、絹のドレス、果ては馬車一台分の紅茶セットまで。
その規模は誰が見ても異常で、使用人たちが「不治の病にでもかかってしまったのでは」と噂するほどだった。



