その日もソフィアは両親に連れ出され、夜会で何人もの男性を紹介された。
中身のない会話と、適当なお世辞。あるいは、歯の浮くような甘ったるい賛辞を浴びせられ、彼女はすっかり疲れきっていた。
早く帰りたい――そんな思いで、グラス片手にテラスに向かう。
すると、そこには先客がいた。
軍服姿の見目麗しい紳士が、テラスの柱にもたれかかり、深い溜め息をついていた。
(あら、この方……)
ソフィアはその紳士に見覚えがあった。
先ほど会場で、大勢の女性たちに囲まれていた紳士だ。女性たちに向ける張り付けたような笑みが、酷く印象的だった。名前は、そう――。
(ウィンダム侯爵家の、レイモンド様。縁談をことごとく断っているって、お母様がご友人と噂話をしていたわね)
もしや、この男も結婚というものに煩わしさを感じているのだろうか。だとしたら、自分と同じだ。
ソフィアは親近感と、若干酔いが回っていたこともあり、レイモンドに話しかけた。
「あなたも、結婚には興味がない口ですの?」
レイモンドは訝し気に目を細めた。 無礼な女だとでも思っているのだろう。
けれどしばしの沈黙の後、冷静な声が返ってくる。
「……まあ、そうだ。その口ぶりだと、君もか?」
「ええ。毎晩のように男性と引き会わされて、正直辟易しておりますの。結婚なんて少しも興味ありませんのに」
酔いの勢いもあり、つい本音を漏らしてしまう。
レイモンドは眉を動かした。それは、何かを思いついたとでもいう様に。
「……君、名前は?」
「ソフィア・ハリントンと申します」
「ハリントンか。……名門だな」
再び、短い沈黙。
その後、レイモンドは意を決した様に口を開く。
「無礼を承知で申し上げる。君は、契約結婚に興味はないか?」
「契約、結婚?」



