旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 それから一週間が過ぎた、うららかな春の日の朝のこと。

 朝食をとるためダイニングを訪れたソフィアは、大いに困惑していた。
 なぜなら、昨夜までは何の変哲もないダイニングだったはずの部屋が、まるで温室のように様変わりしていたからである。 


「……えっ?」

(ここ、ダイニングよね?)

 視界いっぱいに広がる、色とりどりの花。
 壁際の棚、窓辺、テーブルの上、果ては天井から吊るされた花籠まで。部屋中が植物で埋め尽くされている。

 その光景に、ソフィアは目を疑った。

(わたし、部屋を間違えたのかしら?)

 そう思ったが、瞬間、レイモンドの「おはよう、ソフィア」という声に、間違いなくここがダイニングであることを悟った。


「……おはようございます、旦那様。あの……今日って、何かの記念日でしたかしら?」

 絶対に違う、と知りながら、ソフィアはどうにか、契約妻の演技をする。
 すると、レイモンドは椅子に腰かけたまま、朗らかな笑顔を浮かべた。

「いいや? ただ、花なら君を喜ばせられるかと思ってな。昨日の宝石は、気に入らなかったようだから」
「…………」


 その返しに、ソフィアは微かな苛立ちを覚えた。

 ——昨日の宝石。とは、あの“宝石箱の山”のことだ。

 思い出すだけで胃が痛くなる。

 昨日の夕方、司令部から帰宅したレイモンドは、宝石箱を数十個伴っていた。当然、どれも一級品だ。
 それを見せられ困惑するソフィアに、レイモンドは「俺の君への愛は、宝石一つではとても表せるものではない。俺の愛を、受け取ってくれるだろう?」とのたまったのである。


(店の商品をほとんど買い占めてくるなんて、喜べるわけないじゃない……!)