旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 ソフィアは困惑を隠せなかった。

 そもそもこの三年間、贈り物は決まって人前——花も菓子も宝石も、使用人や客の前で手渡された。
 だから当然のように、夫婦を演じるための小道具だと認識していた。

 それなのに、今この場にいるのは、自分たち二人だけ。
 これはいったいどういうことだろう。

 レイモンドを見つめると、彼は一瞬言葉を選ぶように視線を落とし、それからゆっくりと口を開いた。

「……これが、俺の気持ちだからだ」
「――え? それは、どういう……」

 レイモンドは続ける。

「最初こそ確かに演技だった。すべては世間に見せるための舞台装置に過ぎなかった。——だが、気付いたら変わっていたんだ。君に渡してきた贈り物も、愛の言葉も、いつしか、すべてが本心に変わっていた」
「――!」

 それは愛の告白だった。
 二人きりの状況で、レイモンドの言葉が芝居であると思えるほど、ソフィアは鈍くはなかった。

「突然こんなことを言われても戸惑うだろう。応えてくれと言うつもりはない。だが、一つ、提案がある。——契約の延長だ」
「延長……?」
「ああ。できれば一年――無理なら、半年でも、三ヵ月でもいい。報酬はこれまでの倍を払う。だから……もう少し、ここにいてくれないか?」
「……っ」

 ソフィアは息を呑んだ。

 ——まさか、本当にアリスの言った通りになるなんて。
 離縁の段取りを話し合うつもりでいたのに、今、まったく逆の話をしている。

「それと、期間の延長に関わらず、三週間後の次の任地には、君に同行してもらいたい」
「……同行、ですか?」
「ああ。君と、一分一秒でも長く過ごしたいんだ。どうか、よろしく頼む」
「――ッ」

 その言葉は、今のソフィアにとってあまりに予想外の言葉だった。

 ――再び、暖炉の炎がぱちりと弾ける。

 その音をどこか遠くに聞きながら、ソフィアは驚きのあまり、しばらくの間茫然とするばかりだった。