旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


(もしかして、この四日間、旦那様がずっと難しい顔をされていたのは、このせいだったの?)

 考えがそこに辿り着いた途端、ソフィアは少しだけ力が抜けた。
 正直、それならもっと早く言ってくれれば良かったのに、と思った。

 ——もっとも、そう簡単に話せることでもなかったのだろうが。

「旦那様が気になさることではありませんわ」

 ソフィアは、レイモンドを安心させるべく微笑む。

「それこそ、わたくし自身が望んだことなのですから」

 刹那、レイモンドは眉を寄せた。

「だが、子どものいない状態で離縁すれば、君は社交界で居場所を失う。それについては、どう考えているんだ?」
「すべて織り込み済みです。旦那様にご迷惑をおかけすることはございませんし、後のことはちゃんと考えておりますので、心配は無用ですわ」

 そもそも、離縁後、この国を出ていくつもりのソフィアにとって、白い結婚こそが最高の条件だった。
 つまり、それについて、レイモンドが気に病む必要は全くない。

 けれど、レイモンドは納得がいかないようだった。
 瞳を揺らし、問いを重ねる。

「……俺には、関係がないということか?」
「そうは申し上げておりません。ただ、白い結婚は旦那様ではなく、わたしにとっても最高の条件だったと申し上げているだけ。それに、十分すぎる報酬もいただいておりますし。ですから、旦那様が気に病む必要は何一つありませんわ」
「…………」

 答えの代わりに沈黙が落ちた。
 暖炉の火が、ぱちりと弾ける。

(……旦那様、また黙り込んでしまったわ。何を考えていらっしゃるのかしら。離縁の話はどうなったの? わたしから聞くべきかしら)

 ソフィアは静かに息を吐き、レイモンドの表情を探る。
 だがレイモンドは視線を合わせず、しばらく何かを迷うように、指先でカップの縁をなぞっていた。

 やがて、彼はふっと視線を外し、ズボンのポケットに手を差し入れる。
 そこから取り出された小さなベルベットのケースが、炎の光を受けて鈍く光った。
 レイモンドが蓋を開くと、そこには一対の真珠のイヤリングが並んでいる。

「……これは?」
「君への贈り物だ。任地から持ち帰って以降、ずっと渡せずにいた」
「……それを、どうして、今?」