旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


(まぁ、いいわ。とにかく離縁について話を進めないと)

 ソフィアはレイモンドの対面に腰を下ろし、脳内で今夜の話し合いについての内容をおさらいする。
 具体的な離縁の日付、公証人の選定に、荷物を運ぶ馬車の手配。預かっていた宝石の返還は現物で問題ないとして、細々した物品の清算方法も決めなければ。
 
 けれど、レイモンドの口から放たれたのは予想外の言葉だった。


「まずは、君に謝らせてほしい。契約条件のことを」
「――えっ?」

 意外な第一声に、ソフィアは思わず素で声を上げた。
 いったい何の話だろう。

「謝罪、ですか? ええと、それはいったい何について……。報酬なら毎月きっちりお支払いただいておりますし、他に特別な条件なんて……」

 ありませんでしたよね? とソフィアが首を傾げると、レイモンドは大真面目な顔で言う。
 
「白い結婚のことだ。あれは君にとって、非常に不利な条件だった」
「不利……ですか? どのあたりが……」
「この国では、子どもを産んでいない女性に社会的地位はない。そのことを、俺はすっかり失念していた。……いや、本当は気付いていながら、見過ごしていた。そのことを、どうしても謝りたかったんだ」
「…………」

 ソフィアは今度こそ目を瞬いた。
 そうして、しばらく逡巡し、ようやくその意味を理解する。

 なるほど確かに。この国の常識や価値観に当てはめれば、『白い結婚』は女性にとって非常に不名誉かつ不利な条件だ。
 けれど、ソフィアにとってはそうではない。――それを、レイモンドは気にしているというわけか。