「こちら、カモミールティーですわ。お好きでしたよね?」
暖炉の炎だけが部屋を照らす薄暗い室内で、ソフィアはいつものように、レイモンドにお茶を勧めた。
橙の光がカップの縁をかすかに揺らし、二人の影を壁に伸ばす。
けれど、レイモンドから返ってきたのは「ああ」という短い相槌だけだった。
いつもなら「ありがとう」「いただこう」と笑みを添えてくるものだがそれもなく、カップへ手を伸ばすこともない。
固く閉ざされたレイモンドの横顔に、ソフィアは内心溜め息をついた。
(やっぱり有り得ないわ。"婚姻の継続"だなんて)
ソフィアは、レイモンドが部屋を訪れる少し前のアリスとのやり取りを思い出す。
「いいですか、奥様。旦那様はきっと、婚姻の継続を提案してくるはずです! そしたら奥様は何も言わず、まずは旦那様の話を聞いてさしあげるのです。旦那様は今、物凄い葛藤を抱えておられるはずですから!」
「ええ? 婚姻の継続だなんて、そんなことあるはずないと思うけど。それに万が一そんな提案をされても、受け入れることはできないのよ? 帝国行きの準備は進んでいるし」
「それでも、今はまだ夫婦なのですから、話くらいは聞いてさしあげないと!」
――正直、アリスの妄想としか思えなかった。
現に今、目の前のレイモンドは「今すぐ屋敷から出ていけ」と言い出してもおかしくないほど険しい空気を纏っているのだから。



