旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 胸の奥に、鉛が沈むような感覚が広がる。  
 それは自己嫌悪であり、自身の罪の重さだった。

 エミリオの言葉が、今も脳裏にこびりついて離れない。

 ――『離縁すれば、夫人は社交界から追放される』

 それを心のどこかで理解しながら、自分は三年間、本当の理由を伝えなかった。いや、伝える勇気がなかった。契約結婚だからと、逃げ続けていた。

 彼女を愛していながらも。

(俺に、彼女を愛する資格などないのかもしれない。それでも……)

 気持ちを伝えなければ、彼女にとって自分は、最後まで「形だけの夫」で終わる。
 それだけは、何としてでも避けたかった。


 一歩進むごとに、過去の罪が足枷のように絡みつく。
 だが同時に、契約を超えた彼女の眼差しを一度でいいから見たいという、叶わぬ望みがかすかに光る。

 その希望が、レイモンドを、ソフィアの部屋の前に運んだ。


「ソフィア、入るぞ」


 そっと声をかけると、しばしあって、扉がゆっくりと開いた。
 そこにあるのは、いつものように、柔らかな笑みを投げかけてくるソフィアの姿。

「お待ちしておりました、旦那様」

 その笑顔に、レイモンドの心臓が、ひときわ強く脈打つ。

「邪魔するぞ」

 レイモンドはその感情を必死に押し殺し、部屋の中へ、そっと足を踏み入れた。