「つまり、この三年間の夫人のお前への態度は、全部演技だったって言うのか?」
「……ああ」
「で、お前はそんな彼女を本気で愛してしまったが、それを伝えられていない――そういうことか?」
「そうだ」
昼間。レイモンドはエミリオに全てを話した。
契約結婚のこと。白い結婚のこと。報酬のこと。
そして、この三年間の間に、ソフィアを愛してしまったことを。
エミリオは、レイモンドの話を不愉快そうな顔で聞いていたが、しばらくすると、冷静な声でこう言った。
「正直、かなり厳しい状況だな。夫人はこれまでのお前の行動を、全部"契約"だと思ってるってことだろ? しかも、月に三百万ギールって。俺なら怖くて契約できねーよ。夫人も相当度胸あるな。借金でもあったのか?」
そして、こう付け加えたのだ。
「にしても、夫人はお前と離縁したあと、どうするつもりなんだろうな」
それは、単純に疑問だ、という声だった。
レイモンドは眉をひそめる。
「……どういう意味だ?」
「だって、この国じゃ子供を産んでない女性の社会的地位は、ないも同然だろ? 軍人の妻は、離縁も死別も珍しくない。でも、社会に認められるのは子供を持ってからだ。ほんと、クソみたいな慣習だけどな。それなのに白い結婚って。お前にしてみれば配慮だったんだろうが、女性側からしたら最悪の条件だ。このまま離縁したら、夫人は社交界から追放されるぞ」
「――!」
その瞬間、胸の奥で、何かが軋む音がした。
『白い結婚』――その条件が、決して配慮などではなかったことを、はっきりと思い出してしまったからだ。
二度と女性を抱くことはない――いや、抱くことができない自分自身の『罪と弱さ』。そして、『責任を丸ごと放棄した』提案でしかなかったことを。
(どうして俺は、こんなに大切なことを忘れていたんだ。俺は、彼女に許しを請わねばならない立場だというのに……)
視線が床へ落ちる。
思考が、意識の底へと沈んでいく。



