エミリオは背を向け、手をひらひらさせながら風のように去っていく。
その背中を見つめ、レイモンドは長い溜め息をついた。
「……すまない、ソフィア。あの男が訳の分からないことを……」
「ふふっ。エミリオ様は、旦那様のことをとても慕ってくださっているのですね。わたしも、嬉しいです」
「……慕っている? あれがか?」
「ええ、とても」
夕日は完全に沈み、空には一番星が輝き始めていた。
レイモンドは、空を仰ぎながら、確かな意志を持って、ソフィアの小さな手を握りしめた。
「旦那様……?」
「……ソフィア。俺は、きっとこれからも沢山間違えるだろう。……だが、それは、君を愛しているがゆえなんだ。だから……」
ソフィアは足を止め、レイモンドを見上げた。
不器用な騎士の、精一杯の愛の告白。
彼女は握られた手に力を込め、彼の大きな掌を優しく包み返した。
「……どこへも行きませんわ。ここは、もう、わたしの居場所ですから」
一番星の光が、二人の足元を静かに照らす。
レイモンドはソフィアの体温を感じながら、再び歩き出した。
繋いだ手から伝わる鼓動は、もう契約の条項など必要としない、本物の愛の証明だ。
丘の上の屋敷に灯る明かりが、二人の幸福な未来を祝福するように優しく瞬いている。
潮風に吹かれながら、重なり合う二人の影は、二度と離れることのない一つの絆として、夜の静寂へと溶け込んでいった。
Fin.



