茫然と固まった夫の姿に、ソフィアは心当たりを探り、やがて「あっ」と小さく声を上げた。
「もしかして……ずっとそれを心配してくださっていたのですか? イシュとわたしが恋人同士じゃないかと、旦那様がお疑いになったときの……あれは……」
ソフィアの瞳に、慈しむような光が宿る。
「……いや、もういい。…………考えるだけ無駄な気がしてきた」
「え……? でも、お顔の色が悪いですわ。……大丈夫ですか、旦那様」
「本当に何でもないんだ。気にするな」
「ですが……」
ソフィアが心配そうに顔を覗き込む。
その時、二人の背後から、空気を読まない快活な声が降ってきた。
「おーい! レイモンド……に、……夫人?」
二人が振り返ると、そこには上等な酒瓶をぶら下げたエミリオが立っていた。
三週間前、オルディナの倉庫でレイモンドの背中を強引に押して以来の再会だ。
「ご無沙汰しております、夫人。――って、どうしたんだよレイモンド。お前、顔が真っ青だぞ」
「エミリオ……。貴様、三週間もどこで何をしていた。まさか、ずっと仕事を放り出してオルディナで飲んでいたわけではあるまいな」
気まずさを隠すように睨みつけるレイモンド。だが、エミリオは「ひどいな」と肩をすくめた。
「人聞きの悪いことを言うなよ。さてはお前、まだ報告書を読んでないな?」
「報告書?」
エミリオはついと身を寄せ、ソフィアに聞こえないよう、レイモンドの肩に腕を回して声を潜める。
「……密輸船のだよ。あの後、俺は密かに『アルマ商会』の出どころを追ってたんだ。そしたら、その黒幕が、ブルックリン伯爵だってことがわかってさ」
「ブルックリン伯爵だと?」
ブルックリン伯爵。ソフィアと共に参加したチャリティーの主催者だ。
意外な黒幕の名に、レイモンドは眉を寄せる。



