一行はイシュを見送るため、夏の陽光が石畳を眩しく照りつける玄関先へと出た。
待たせていた馬車の御者が、恭しく扉を開ける。イシュは不敵な笑みを浮かべると、レイモンドを横目で流し見た。
「ウィンダム侯。フィアを頼んだよ。彼女の唯一無二のパートナーという座を譲るのは、少し寂しい気もするけれど……。今の君になら、フィアを任せられる」
「……お前にそんなことを言われると、気味が悪いんだが」
「ははは! 酷いなぁ。僕はただ、フィアの幸せを心から願っているだけなのに」
「――フン。お前に言われずとも、ソフィアは俺が幸せにする」
レイモンドの低い、だが鋼のように揺るぎない声。ソフィアはその頼もしい横顔を見上げ、幸せを噛みしめるように微笑んだ。
「その言葉が聞けてよかった。君のその自信過剰なところ、僕は結構気に入っているよ。それじゃあ、また」
イシュは言い残すと、優雅に身を翻し、馬車のステップに足をかけた。
――だが、レイモンドはふと、胸の奥底に刺さったままの「重大な疑問」を思い出し、慌てて彼を呼び止めた。
「待て、イシュ・ヴァーレン! お前に……聞いておかねばならないことがあった」
イシュは扉を閉めようとした手を止め、振り返る。
「何だい? 長話は困るんだけどな」
レイモンドは数歩詰め寄り、不遜な態度を崩さないイシュと至近距離で向き合った。
背後ではソフィアとアリスが不思議そうにこちらを見守っている。だが、これだけは絶対に彼女の耳に入れるわけにはいかない。
レイモンドはイシュの耳元に口を寄せ、低く、圧を孕んだ声で囁いた。
「……お前に妻子がいることを、ソフィアは知っているのか?」



