――食事が始まった。
銀器が皿の上でわずかに擦れる音と、燭台の炎の揺らめきだけが、部屋を満たす。
ソフィアは、用意していた言葉を胸の奥に沈めた。
(やっぱり止めましょう。こんな張り詰めた空気の中で芝居の話をしたって、悪い方にしか転がらないわ)
ナイフを置く仕草の一つひとつまで、レイモンドの機嫌を探る。
レイモンドの眉間の皺はいつまで経っても解けず、視線も合わない。
その静けさを前に、ソフィアは決意を固めた。
(やっぱり、離縁についてきちんと話し合わなくちゃ。でも、どうやって切り出そうかしら)
それが問題だった。
唐突に告げれば、拒まれるかもしれない。
少しずつ伏線を張るべきか、それとも覚悟を見せて真正面から言うべきか――考えは定まらぬまま、食事は淡々と進んでいく。
その時、不意にレイモンドが口を開いた。
「……今夜、君の部屋に行く」
「――!」
手にしていたフォークが、わずかに皿を叩いた。
三年間、何度も繰り返されてきた、この合図。
使用人たちに向けた形式的な“夫婦の営み”の知らせ――実際はベッドとソファに別れて眠るだけの夜。
(……このタイミングでのお誘い。"離縁"についての話し合いに違いないわ)
胸の内に、緊張と高揚が入り混じる。
レイモンドはちゃんと、離縁について考えてくれていたのだ。つまり、ここ四日間のレイモンドのこの態度の理由も、その時明かされるはず。
ソフィアは息を整え、いつもの笑みを浮かべる。
「わかりました。準備をして、お待ちしておりますね」



