旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


「……さて、フィア。この手紙を(もっ)て、僕の役目はおしまいだ」

 イシュは窓から視線を戻すと、名残惜しさを微塵も見せず、優雅に肩をすくめた。

「君から預かっていた資金と売上金、帝国に用意していた君の店の権利書……。それに関わる一切の手続きは、すべてこの国の支部長に任せておいた。後は彼に聞いてくれ。僕はオルディナで乗船手続きをしないといけないから、もう行くよ」
「……そんな。もう? もっとゆっくりしていけばいいのに」

 ソフィアが寂しげに眉を下げると、イシュは困ったように笑い、どこか突き放すような、商人の顔をした。

「そうしたいのは山々だけど、もう二週間も予定が遅れているんだ。これ以上は、流石に父が黙っていない。こう見えても僕は、帝国支部の代表だからね」
「……そう、よね。ごめんなさい、無理を言って」

 ソフィアは、イシュの元に歩み寄った。

「本当に、何から何までありがとう、イシュ。あなたには、いくらお礼を言っても足りないわ。実家のことも……それに、『サーラ・レーヴ』の火を消さずにいてくれたことも」
「いいって。別に、永遠の別れというわけじゃないだろう? 二年後に、また様子を見にくるよ」

 穏やかに目を細めるイシュに、ソフィアはほっと安堵の息を吐く。

「……そう。そうよね。絶対、また会えるわよね?」
「うん。……会えるよ。必ず会いに来る」

 イシュは帽子を深く被り直すと、別れの挨拶を終えた。