ハリントン邸でのあの激動の日から、二週間が過ぎた。
軍港ヴェルセリアの丘に建つ、ウィンダム侯爵家の小さな屋敷。
そこは今、夏の盛りを告げる蝉時雨と、どこまでも青く澄んだ潮騒に包まれていた。
朝の光が差し込む主寝室。レイモンドは、全身鏡の前で夏用の軍服を整えていた。
その胸ポケットには、一枚のハンカチが誇らしげに差し込まれている。シルバーグレーのシルクに、紫の糸で一針ずつ丁寧に刺された「鷹の羽」。
「……旦那様、曲がっておりますよ」
背後からかかった柔らかな声に、レイモンドは少し照れくさそうに口角を緩めた。
歩み寄ってきたソフィアが、その細い指先でハンカチの端を整える。一針一針、彼女が真心を込めて縫い上げたこの刺繍は、今やレイモンドにとって、どんな叙勲のメダルよりも誇らしいものとなっていた。
「……ああ、悪い。どうにも、慣れなくてな」
「ふふ、よくお似合いですわ。さあ、一階へ降りましょう。そろそろイシュが来る頃ですわ」
ソフィアの言葉に応えるように、窓の外から馬車の車輪が砂利を噛む音が聞こえてきた。
窓から顔を覗かせると、門の前で一台の豪華な馬車が停まり、一人の男が降りてくる。
「イシュ!」



