ソフィアは気づいていた。
ハリントン家でレイモンドの姿を目にしたとき、心の底から安堵した自分の心を。彼の胸の中に飛び込んでしまいたかった、あの衝動を。
ずっとずっと、見ない振りをしていた、気づかないふりをしていた、レイモンドへの想いを――。
「――旦那様」
言わなければ。
今言わなければ、きっと一生後悔する。
ソフィアはそっと、唇を開いた。
「……そんなこと、言わないで」
椅子から立ち上がり、俯いたレイモンドの顔を覗き込むようにして、告げる。
「今さら、そんな風に言われたら、わたしの気持ちはどうなるんですか」
「……っ」
レイモンドの肩が、びくりと震えた。
彼は右手にグラスを持ったまま、茫然とソフィアを見上げる。
「……どういう、意味だ?」
月光を淡く映す透き通ったレイモンドの瞳に、小さく、星が瞬いた。
「――今、何と言った?」
「…………責任を、取ってと……言ったんです」
レイモンドが、ごくりと、大きく息を呑む。
「あなたを好きにさせた――責任を取ってください」
「――!」
「今さら、本当は愛していなかったかもだなんて……無責任なこと言わないで。あんな……あんな風に優しくされて、庇ってもらって、それでも、わたしが心を動かされないと……そう思っているんですか?」
ソフィアの言葉は、レイモンドの揺らぐ心に、迷いなき一撃を与えた。
理性が、音を立てて崩れていくのが分かる。
「だが、君には夢が……」
「そこまで言わせるんですか? 本当はわかっているくせに……! わたしはただ、逃げていただけなんです。夢は確かに叶えたい、この歩みを止めるつもりは、毛頭ありません。でも……! 最初に帝国に行こうと思ったのは、ただの逃避だった。わたしは、母から、あの家から逃げ出したかっただけ。最初は、それだけだったんです……!」
「……ソフィア」



