次に口を開いたのは、レイモンドだった。
「……まあ、今日のことは、驚かなかったと言えば嘘になる。俺の家も大概だと思っていたが……君の母親は……その、強烈だったからな」
「……そう、ですよね」
「君の母親を悪く言いたくはないが、あの家で育った君が、まともな結婚を夢見るはずがないと思ったよ。……まあ、契約結婚を提案したこの俺に、そんなことを言えた義理はないが」
レイモンドは自嘲気味に笑った。
グラスを揺らし、氷が触れ合う高い音を響かせる。
「――だが、同時に思い知らされたんだ。俺は君に、理想の妻を求めていただけだったのかもしれないと……。……果たして俺は、心から君を愛していると言えるのだろうか……」
「……え?」
刹那、ソフィアの心臓が跳ね上がった。
突然、何を言い出すのか――目を見開いたソフィアの視線の先で、レイモンドの瞳が、泣き出しそうに彷徨う。
「笑ってくれ、ソフィア。…………俺は、俺自身の心がわからなくなったんだ。……あんな大口を叩いておいて、おかしいだろう?」
「――っ」
彼はふいと視線を逸らした。月光が、彼の碧眼に流星のような悲しみを映し出す。
「君にはもう何度も話しているが……俺の両親は、物心ついた時から互いに愛人を囲っていた。顔を合わせれば社交辞令か、あるいは刺すような沈黙。……弟たちとも疎遠だ。だから、結婚など不要だと思っていた。俺に人を愛することはできないと……。だが、君と出会って、いつの間にか、君から目が離せなくなった。偽りの関係だとわかっていながら……君の意思を無視して縋り付いた。それは……もしかしたら、俺が君に、君の母親のように……理想を重ねていただけなのかもしれないと……。――いや、すまない。忘れてくれ。どうやら俺は、少し、酔っているらしい」
「……旦那、……様」
その横顔は、見たことがないほど弱々しく、ソフィアはどうしたらいいかわからなくなった。
けれど、これだけは確かだった。
彼のこんな顔は、見たくない。



