テラスでは、レイモンドが一人、椅子に深く腰掛けていた。
傍らのテーブルには琥珀色の液体が揺れるグラスと、灰皿。彼は指先に挟んだタバコを燻らせ、黒々と広がる夜の海を見下ろしている。
「……旦那様」
呼びかけると、レイモンドは小さく肩を震わせて、ゆっくりとこちらを振り向いた。月光の下、彼の瞳が奇妙な熱を帯びて揺れる。
「起きたのか。……気分はどうだ? 今日は疲れただろう。色々と話したいことはあるだろうが、それはまた明日に――」
「いいえ、その……そうだけど……そうじゃなくて。わたし、旦那様に、お礼と謝罪をお伝えしたくて……」
「…………礼?」
レイモンドが、意外そうに眉をひそめた。ソフィアは言葉を継ぐ。
「庇ってくださって、ありがとうございました。それと……その、家族の、あんなあさましい姿をお見せしてしまって……本当に、申し訳ありませんでした」
正直、まだ、心の整理はついていない。
母の本音も、兄たちの絶望も、そして、あのような場面をレイモンドに見られたことも、自分の弱さを知られたことも。ソフィアはまだ何一つ、区切りがついていなかった。
けれど、だからこそ、今伝えておかなければと思った。
どう伝えたらいいか、言葉はまとまらない。それでも、今言わなければ、自分はまた「ハリントンの娘」という仮面を被ってしまう――そんな気がした。
レイモンドは、そんなソフィアの意を汲んだのか、椅子から立ち上がり、ソフィアに右手を差し出した。
「座って話そう。夜は長い」
「……はい、旦那様」
これまで、繰り返し差し出された大きな手。
重ねた彼の指先は、これまでにないほど熱かった。



