深い眠りの底から、ゆっくりと意識が浮上した。
肌に触れるシーツの冷たさと、微かに漂う潮の香り。蝋燭の淡い光が、壁に陰影を落としている。
(……ああ、わたしったら。馬車の中で眠ってしまったのね)
そこは、軍港の丘の上に建つ屋敷だった。
ソフィアが重い身体を起こすと、ソファでアリスが安らかな寝息を立てていた。その日常的な景色に、ソフィアは強張っていた心が、わずかに解けるのを感じた。
――ハリントン邸での、あの嵐のような時間。
帰りの馬車で眠り込んでしまった自分を、レイモンドがここまで運んでくれたのだろう。
窓の外を見れば、月は高く、夜の静寂が世界を包み込んでいる。
そこからふと視線を落とすと、一階のテラスに、月光を背負って佇む人影があった。レイモンドだ。
ソフィアはアリスを起こさぬようにそっと寝台を抜け出すと、羽織を手に取り、素足のまま階下へと降りた。



